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DX推進「Googleでよくないか」と「Claudeから触れるか」
こんにちは。公認会計士・税理士の富村亮超です。
仕事柄、DX推進SaaSの説明を伺う機会が多いです。
新しいプロダクトの話は素直に面白いのですが、聞いているうちに、ほぼ毎回、同じ2つの質問を投げたくなります。
①「それ、Google(Google Workspace)でよくないですか?」
②「Claudeから触れますか?(MCP連携は?)」
新商品を出すのは大歓迎です。ただ、この2つに答えられないプロダクトは、要件定義の段階で何か大事なものを見落としています。
第一部:私が説明会で感じていること
①「Googleでよくないか」問題
まず一つ目。正直、「Googleでよくない?」と感じる場面が多すぎます。
比較の土台として、Google Workspace(GWS)の強みを4点おさらいしておきましょう。
(1) 基本機能にGeminiが標準で付属している。 ドライブの中身もメールの内容も、Geminiが読んでいます。情報・ナレッジの保管先として優秀すぎます。
(2) 他社サービスとの連携が豊富。 特にClaudeとの連携が大きい。Google Driveを介したワークフローの組みやすさは、実務で効いてきます。
(3) 社会全体に広く行き渡ったプラットフォーム性。 Gドライブ、スプレッドシート、ドキュメント。同期性のあるクラウドサービスが、すでに社会の共通基盤として地位を確立しています。相手も使っている、という前提で話が進められる強さがあります。
(4) 安い。 コスト感が壊れています。
この4点と比較したときに、「それでもこのサービスを使う価値がある」という比較を提示できていない製品が、あまりに多い。とりわけ、AI-OCRを載せただけの製品。2年前の基準レベルの「新製品」を見ると、内部でどういう意思決定になっているのか、誰が要件定義を書いているのか、本気で心配になります。
②「Claudeから触れるか」問題
二つ目。効率の観点から見れば、ほぼ同じことができるシステムどうしの比較において、Claudeから触れないバックオフィスシステムは、完全に劣後します。
私は自分の事務所で、freeeのMCP連携を使った記帳ワークフローを日常的に回しています。Google Driveのフォルダに資料を置き、Claudeがそれをすべて読み、MCP経由でfreeeに起票していく。この「AIから触れる」ことの威力を毎日体感しているので、触れないシステムに戻る気にはなれないのです。
ここで多くのベンダーが持ち出してくるのが、セキュリティです。「AIに触らせるとセキュリティが心配でしょう」と。
しかし、率直に言って、本気でクラックを仕掛けられたら秒で突破される零細事務所において、そこだけセキュリティを盾に「AIからは触らせません」と閉じることに、どれほどの意味があるのか。
衛生要因は、プロダクト選定の十分条件ではありません。 ——このことを、説明会のたびに痛感します。
さて。ここまでが前半の「所感」です。ここからは、この2つの質問を、もう少し丁寧に分解していきます。
第二部:2つの質問は、その会社の方向性そのもの。
①の精緻化:GWSが「構造的に不得意」な領域はどこか
「Googleでよくないか」は、正確には次の問いです。
あなたの製品は、GWSが構造的に苦手とする領域で価値を出しているか? それとも、GWS+Claudeで足りることを、わざわざ別プロダクトにしているだけか?
ではGWSが得意な領域と苦手な領域はどこで分かれるのか。私の整理はこうです。
GWSが圧倒的に強いのは、「非構造データを、人が1件ずつ判断しながら扱う」領域です。ドキュメントを書く、資料を貯める、メールを読む、それをAIに要約させる。ここはGWS+Geminiで完結しますし、Claudeを繋げばさらに強い。
逆に、業務システムが本当に価値を出すのは、その外側です。具体的には3つ。
- 状態遷移の管理:この案件は今どのステップにあるか。誰が起票して誰が承認したか。どの資料が回収済みで、どれが未回収か。
- 大量トランザクションへの一貫したルール適用と証跡:同じ処理を、同じルールで、抜け漏れなく、記録を残しながら回す。
- 日本の法律に合わせたドメスティックな対応。
この3つを、スプレッドシートとGASで自作しようとすると、地獄を見ます。作れなくはないが、保守が破綻する。つまり重要なのはこのレイヤーで、自作では割に合わないだけの作り込みがあるかどうかなのです。
実例:弥生のZEXTは、なぜ「買い」だと判断したか
ステマではないことを先に強調しておきますが(重要)、私がここ3か月で「これは導入価値がある」と判断した数少ない製品が、弥生株式会社のZEXTです。会計事務所運営に特化したクラウド業務システムで、顧問先の決算月から逆算してタスクを自動生成し、スケジュール登録から処理後の記録までを扱えます。ホーム・ダッシュボード、カレンダー・タスク、日報、進捗管理、活動履歴、顧客管理、業務処理簿、工数生産性分析、資料回収、企業ドックといった機能を備えています。イメージとしては、Asanaのタスク管理と、顧問先ナレッジの蓄積・共有を、会計事務所向けに一体化したようなサービスです。
これを先ほどの「状態管理・統制レイヤー」に当てはめると、ぴったり嵌ります。年間カレンダーで案件の流れが一望でき、「今どの月に仕事が集中しているか」「何社がどのタイミングで動いているか」といった全体像が見える。工数管理と履歴が一体化しているので、日々の業務記録がそのまま知財として蓄積されていきます。
これをGWSで自作しようと思うと、かなーーーーーり大変です。
1ライセンス月額2,500円(税抜)で始められることを踏まえれば、自作の労力と保守コストを考えるだけで、十分に買う理由になります。そもそも、素人の自作アプリを人に使わせることほど大変なことはありません。
②の精緻化その1:「Claudeから触れる」の質には、階層がある
次に②です。「Claudeから触れるか」も、そのまま投げると乱暴なので、精緻化します。ポイントは、「触れる」にも質の階層があるということです。
まず、読み取り(Read)と書き込み(Write)を分けて考える必要があります。データをClaudeに読ませて分析させるだけでも十分に価値がありますが、私のfreeeワークフローのように、読み取りに加えて起票(登録)まで一気通貫でできると、効率が段違いになります。
その上で、「どうやって触るか」の手段にも序列があります。ここが今回、最新の状況を調べてはっきりした点です。
「Claude in Chromeで画面を読ませればいい」は、絵に描いた餅
先ほど絶賛したZEXTですが、公式には、AIとの連携手段として興味深い事例を出しています。ZEXT自体はMCPに対応していませんが、代わりにClaude in Chrome(ブラウザ上のClaude)にZEXTの画面を読ませて、分析やレポート生成をさせるという使い方を提案しているのです。「情報はZEXTで管理、アウトプットはClaudeで生成」というワークフローで、進捗一覧の画面を見せるだけでスタッフ別の負荷分析やサマリーを出す、といった活用例が公式に紹介されています。
理屈としては分かります。MCPやAPIが無くても、画面さえ読めればAIに分析させられる、と。
ですが、Claude in Chromeによる画面操作は、できなくはないが、ガチャガチャと遅く、ほぼ絵に描いた餅です。
デモとしては成立しても、毎日の業務で回すには、まだ全く実務に耐えるレベルにありません。
つまり、「Claudeから触れる」には、少なくとも次のような序列があります。
- MCPによるネイティブ連携(最も速く、安定し、書き込みまで一貫できる)
- API連携(MCPほど手軽ではないが、プログラムから確実に叩ける)
- 画面スクレイピング/ブラウザ操作型(最後の手段。)
「うちもAIに対応しています(=画面をブラウザのAIに読ませられます)」という説明を、MCP/API連携と同じ土俵で語られると、それは違う、と申し上げたい。手段の質が一段も二段も違うからです。
ZEXTは業務システムとしては優秀ですが、ことAIとの連携の”質”という一点においては、まだ発展途上だと評価しています。誤解のないように付け加えると、これはZEXTを落とすための指摘ではありません。
画面スクレイピング型という手段そのものの限界の話です。ZEXTの価値は前半で述べたとおり、連携以前の作り込みにあります。
②の精緻化その2:セキュリティは選ぶ要因にはならない。
②に対する最大の反論は、やはりセキュリティです。
ただここで、ハーズバーグの言葉を一つだけ借ります。仕事の満足に関わる要因は、「無いと不満だが、あっても積極的な満足にはつながらない要因(衛生要因)」と、「あることで積極的な満足につながる要因(動機付け要因)」に分けられる、という考え方です。
これをプロダクト選定に当てはめると、こうなります。
- セキュリティは、衛生要因です。無ければ論外ですが、あるからといって「そのプロダクトを選ぶ理由」にはならない。
- 動機付け要因は、①「GWSで代替できない固有価値」と、②「Claudeからネイティブに触れる効率」です。ここで差がつく。
セキュリティ一本足で勝負してくるプロダクトは、衛生要因だけで選ばせようとしている。それは、そもそも土俵を間違えているのです。
MCP対応は「既定路線」か
②の質問はもう一段深くなります。「今、Claudeから触れるか」だけでなく、「触れる方向に賭けているベンダーか」という問いです。
今は対応していなくても、その方向に本気で舵を切っているなら、将来性はある。
まとめ
DX推進SaaSの説明を聞くとき、私が投げる2つの質問は、結局のところ、こう言い換えられます。
- ①「Googleでよくないか」= GWSが構造的に苦手なレイヤーで固有価値を出しているか。
- ②「Claudeから触れるか」= AIからネイティブに触れる(もしくは、その方向に賭けている)か。そして、セキュリティという衛生要因を、動機付け要因のフリして語っていないか。
ZEXTは①に明確に答えたから、AI連携が主役でなくても「買い」だと判断しました。一方②の観点では、画面をブラウザのAIに読ませる方式はまだ実務に耐えず、MCP/APIによるネイティブ連携とは質が違う、というのが正直なところです。
新しいプロダクトには、この2つに正面から答えてほしい。それだけで、要件定義を書いた人が何を見ていたのかが、はっきり伝わってきます。
数か月、いや数週間でベストプラクティスが変わる現代AI会計業界において
ベンダーロックイン自体に非常に大きな機会損失が付きまといます。
したがって、私の結論は「基幹システムはその後のスケーラビリティを考えてGoogle一択」
そして、現状一番スケールしやすいのはGWS×Freee×claudeだと思っています。
本記事は2026年7月時点での一実務家の所感です。各社のMCP・API対応状況は変化が速いため、導入検討の際は必ず最新の公式情報をご確認ください。また、特定のプロダクトの導入判断は、各事務所の運用実態に合わせてご検討ください。
