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なぜAIが進化してもSaaSは死なないのか?
こんにちは。公認会計士・税理士の富村です。
今日はあえて、SaaS is deadの話をもう一度こすろうと思います。
結論、
SaaSは死にません。少なくとも、僕は会計ベンダーは死なないと思ってます。
なんですけど、その結論にたどり着くまでに「いや、これマジで死ぬかも」と一回ビビった話をさせてください。
1. 技術的には、もう”中抜き”が見えてしまっている
今、自分がほんの数ヶ月前(去年の年末あたり)に書いたAIのブログ記事を読み返すと、あまりの「古代人っぷり」に笑えてきます。それくらい変化が速い。
実体験として、「AIのおかげで確定申告が3月時点の5倍速で終わる」というレベルの進化を体感しました。そして来年2月の確定申告本番まで、あと9ヶ月あります。
つまり「3ヶ月で5倍速」という劇的なパラダイムシフトが、本番までにあと3回も控えているということです。
これはもう、ドラゴンボールのフリーザですよね。

もし来年の確定申告期に「最終形態」のAIが降臨したらどうなるか。
データの保存場所(Google WorkspaceでもDropboxでも、なんでもいい)と、強力な推論エンジン(ClaudeやGemini)さえあれば、分厚いバックオフィスSaaSのUIを中抜きして「確定申告を一瞬で終わらせる」というビジョンが、うっすらどころか割とハッキリ見えてしまうんです。
ベンダーが数ヶ月〜数年かけて「システム内AI」をせっせと要件定義して実装している頃には、本家のAIモデルはもう何世代も先へ進化している。
ここまでは、僕も「バックオフィス市場そのものがAIに根こそぎ食われる未来、あるな」と本気で思いました。
……で、ここからが本題です。
2. 会計ベンダーを切ることのデメリットがでかすぎんだろ

技術的に「できる」ことと、実際に「切っていい」ことは、まったくの別問題です。
仮に、全部AIで、しかも低コストでできるようになったとしましょう。
それでも僕が会計ベンダーを全部解約するなんてことは、選択肢として絶対にありえません。理由は大きく2つあります。
理由①:ベンダーと付き合うこと自体が「最新情報へのアクセス権」だから
会計ベンダーと契約しているメリットって、ソフトの機能そのものだけじゃないんですよね。
最新の税制改正への対応、法令アップデート、研修、実務情報、そして「業界のいま」への接続。こういうものが、ベンダーと付き合っているという一点でスルッと手に入る。
それだってAIを使えば手に入らんこともないですよ。でも基本的にはそれは自分で引っ張ってこないといけない。
プッシュ型で情報を入れてくれるのはありがたいことなんです。
理由②:「自作ゲーム最強説」 ― ひとりで勝っても、輪に入れない
ここが一番言いたいところです。
仮に僕が、たったひとりで自作のゲームを作って遊んでいるとします。それがどれだけ面白くても、ポケモンやスマブラで盛り上がっている友人の輪には、入れないんですよ。
「俺のゲームのほうが面白いから」では、どうにもならない。みんなが同じプラットフォームで遊んでいるからこそ、対戦できるし、話が通じるし、輪になれる。
会計の世界も、まったく同じです。
会計実務って、自分ひとりで完結する孤独な作業じゃありません。クライアントがいて、他の士業がいて、金融機関がいて、当局がいる。みんなが乗っている”共通プラットフォーム”の上で、初めて成立する営みなんです。
ここでAIを使って自分だけが爆速になったとしても、その共通言語から自分だけ降りてしまったら、輪に入れない。Anthropicと僕が個別にお付き合いしてるわけじゃないですからね。
自作ゲームが世界一面白くても、それはそれ。
会計ベンダーという”みんなが遊んでいる輪”から降りるという選択肢は、少なくとも僕の中には1ミリもありません。
3. 各社の2026年の動きは、むしろ「SaaSは死なない」の裏付けだった
面白いのは、ここ最近の会計ベンダー各社の動きが、「SaaSの死」どころか、むしろ真逆を示していることです。
各社、AIエージェント化に本気で舵を切っています。
freeeは2026年4月、認定アドバイザー向けに統合型AIエージェント「freee Agent Hub」を発表しました(。注目すべきは、freee申告のPublic APIや自動登録ルールのPublic APIも同時に打ち出したこと。freeeは今後もオープンなプラットフォームとしての機能を拡充し、AIエージェントに選ばれる責任ある基盤を構築すると明言しています。しかもこのAgent Hub、デスクトップアプリ型で、APIが提供されていない外部サービスとの連携を含むAIエージェント機能を利用できるという、かなり”開いた”設計です。
マネーフォワードも2026年4月に「マネーフォワード AI Cowork」を発表。こちらが掲げる3つのデータ基盤がまた象徴的で、2つ目がExcelやSlackなどマネーフォワードクラウド外のデータをAIが活用できるデータベース、3つ目が他社SaaSサービスや公的機関が公開するMCPサーバーとの連携と、思いっきり”外”を向いています。
ここから読み取れるのは、ベンダーが「AIの下請けになって消える」のではなく、「AIが乗っかる”土台”として生き残りにいっている」という構図です。彼らは”AIに選ばれる側”へ自ら回ろうとしている。これってまさに、SaaSがUIという衣を脱いででも、残る場所を見つけにいっている動きなんですよね。
対照的なTKC ― 「接続しない自由」という一手
一方で、まったく逆を選んだのがTKCです。
TKCは2026年5月、AIエージェント「FXエージェント」「OMSエージェント」を発表しました(提供は同年9月末予定)。基盤にMicrosoft Foundryを採用しつつ、注目すべきは MCPサーバーを提供しない方針も、Microsoft Foundryを採用する判断も、関与先企業のデータを守るという同じ設計思想から出てきた一貫した選択だと明言した点です。この設計思想を「Governance by Design」と名付けています。
ある解説では、これを 便利さよりも法定責任に紐づく業務領域では”接続しない自由”が競争力になる、という反主流のメッセージと評していました。
賛否はあると思います。正直、僕は「頼むからカレンダーくらい連携してくれ」と思っています。
でも、ここでTKCが示しているのは、「守秘義務」や「責任の所在」という、AI単体ではどうにも担保しきれない価値を、ベンダーが引き受けにいっているという事実です。これもまた、ベンダーにしか提供できない固有の価値の一つの形ではあります。
開く(freee/MF)も、閉じる(TKC)も、ベクトルは真逆。でも両方とも「AI時代にベンダーが提供できる固有価値は何か」という同じ問いに、必死で答えを出しにきている。SaaSが死ぬどころか、生き残り方を再発明している最中です。
4. 「全部AIでできる」は、問いの立て方が間違っている
最後に、一つだけ留保もしておきます。
会計ベンダーと付き合う必要がそもそもない個人ユーザー つまり自分の小規模な確定申告くらいしかやることがない人であれば、AIで完結させてしまって、ユーザーが少し減る可能性は、正直ちょっとあると思います。そこは認めます。
まぁ、もう百万回言われている話ですけど、結局のところ、その正確性を誰が担保するんだ、という話なんですよね。AIが出した数字を、最終的に責任を持って「これで正しい」と言える主体が必要で、その責任は今のところAIには取れません。
だから、「全部AIでできるか?」という問いは、そもそも立て方が間違っているんだと思います。
問うべきは「できるか」ではなく、「やるべきか」。
答えは、ハッキリNOです。むしろAIの進化が凄まじいこの時代だからこそ、”みんなが遊んでいる輪”の中に居続けることの価値は、上がっていく。
インターネットに公開されていない情報の価値は上がり続ける。
そしてそこへのアクセス権は、往々にして閉じたコミュニティの中にある。
友達から教えてもらって、セレクトボタンを押しながら電源ボタンをかちゃかちゃやったら、コイキングがミュウに変わっていたように、、、
と、思う今日この頃です。
