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スタッフブログ

現役会計士が、「記帳代行3.0」そして、「4.0」の世界を語ります。

こんにちは。公認会計士・税理士の富村亮超です。

会計・税務の世界で今、静かだが決定的な「分断」が起きているのをご存知でしょうか。

かねてより、領収書や通帳の束を人間の手で入力していく「記帳代行1.0」の時代がありました。もちろん、それは今この令和の世の中においても、あらゆる税理士事務所の業務の一部です。

その後、会計ソフトの進化とともに、企業自身が入力を行い経営数値をリアルタイムに把握する自計化(記帳代行2.0)が推進されました。これは、記帳代行という業務自体が、原価割れを起こす可能性が非常に高いことも、関係しています。

そして現在、私たちが直面しているのが「記帳代行3.0」——AIとOCRによる圧倒的な自動化の世界です。

データさえ電子化されていれば、AIが9割の処理を自動でさばいてしまう。浮いた時間で、我々専門家は経営相談などの本来の付加価値を提供できる。

そんな「美しい理想郷」が語られています。

しかし、会計事務所でDX推進を担当する私が目の当たりにしている現実は、そんなスマートなものではありません。

AI導入が引き起こした「業務の因数分解」と悲劇

そもそも、私たちの「記帳」という業務は何で構成されていたのでしょうか。分解すると、以下の2つに分かれます。

  1. 物理的変換: アナログな紙の資料を、デジタルデータに置き換える業務

  2. 知的解釈: 複式簿記というフレームワークを通して、その事象を解釈する業務

  3. 会計ソフト変換:会計ソフトへの入力業務

これまでの人間の手作業は、この①と②を脳内で同時に処理していました。だからこそ、②には「簿記」という知的労働の余地がありました。

しかし、AIの導入によってこのプロセスは残酷なまでに分断されました。AIは、最も高度な知的労働である②を瞬時に、かつ正確に奪い去りました。そして、③も、今やAIを含む様々な手段により代替されつつあります。

そして人間の手元に残されたのは、AIにデータを喰わせるための①の作業——つまり、ひたすら紙を機械に通すという純粋な「ブルーワーク(肉体労働)」だけだったのです。

私の事務所でも、紙をデータ化するためにあるスタッフ(妹)を「スキャン担当大臣」に任命しました。普段はリモートワークを行っている彼女が、丸二日、1000枚以上の折れ曲がったレシートや分厚い通帳をひたすらスキャン機に通し続ける。結果として、彼女は残念ながら「スキャンノイローゼ」に陥ってしまいました。

効率化と楽しい仕事のためにAIを導入したはずが、知的労働をAIに代替され、人間がAIの下請けとして単純作業のみを奉仕する完全なブルーワーカーと化してしまう。これが、AI記帳の現場で生じた新しい世界です。

高単価な企業が払わされている「見えないアナログ税」

このブルーワークを誰が負担するのか。ここに、ビジネスにおける重大な構造的歪みが潜んでいるような気がします。

パレートの法則(8:2の法則)の通り、高効率なデータ形式で資料を提出してくれる2割のクライアントは、往々にしてDX化が進んでおり、自社の収益性も高く、コンサルティング価値に高い対価を払ってくれます。

一方で、段ボール一杯の紙の対応には、スキャン担当大臣のノイローゼという膨大なコストがかかりました。

現状、AI化を進めようとする多くの会計事務所では、手のかからない優良企業から得た利益で、紙企業の「見えないブルーワークのコスト」を補填しているのが実態なのではないでしょうか。

本来負担すべき企業がコストを負担せず、システム化を進めた優秀な企業が「アナログ税」を無意識に肩代わりさせられているような、そんな実態が見えてきます。

この「アナログ税」の押し付け合いに対し、市場はすでに動き始めています。

AI化できる電子データの顧客しか受けない」とゾーニングを行う若手個人事務所も現れました。

これは、ものすごい変化です。

従来、このような選り好みが許されるような税理士法人は、クライアントを選べる程度に単価の高い、一部の大手に限られていたことでしょう。

知的労働の無料化と、新たな「高付加価値」の誕生

そして、この記帳代行3.0の世界は、私たちに一つの究極のパラダイムシフトを突きつけています。

それは、「最も価値が高く、高コストな仕事はむしろ、『アナログをデジタルに変換する物理的作業』になる」という事実です。

かつて高付加価値とされた会計の解釈(簿記)は、AIによって限りなくコモディティ化(無料化)していきます。顧問料の単価は、限りなく下がっていくでしょう。

その結果、AIには絶対に不可能な「物理世界とデジタル世界の摩擦」を引き受けるブルーワークにこそ、最大のボトルネックとして強烈なプレミアムがつくという逆転現象が起きます。

紙を丸投げするということは、この超高額なプレミアムサービスを要求していることになります。

AI化が進んでいる事務所の顧問料プランはこのような分解になるかもしれません。

 

紙資料提出:顧問料9万円(うち、記帳代7万)

デジタル提出:顧問料3万円(うち、記帳代1万)

自計化:顧問料2万円

 

こうなると、半周回って、自計化をAIでやる、というのが企業の行動としては、最も合理的な気がします。

記帳代行4.0の時代は、自計化(2.0)に戻る。

freeeがずっと、税理士いらずの記帳を広告しているのは、この、4.0の時代を見据えているのかもしれませんね。