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スタッフブログ

「アサインってなんやねん」と冷笑していた私が、立派なカタカナ語使いになるまで

こんにちは、会計士・税理士の富村亮超です。

昔、私が監査法人に入社した頃の話です。

千年の都・京都の空気を吸いながら、意気揚々と飛び込んだプロフェッショナルファーム。そこで私を待ち受けていたのは、飛び交う謎の呪文(横文字)たちでした。

先輩「じゃあ、君はこの案件にアサインされたから」

私(心の中):「……はい? アサイン? いや、『配属』って言えよ!(笑) ルー大柴か!」

グループ研修「ここの数字、ちゃんとリファレンス振ってますか?」

私(心の中):「リファレンス……? 参照? 引用? 日本語で良くないですか?」

当時は、これみよがしに横文字を使う先輩や上司を見ては、「かっこつけちゃってまあ……」と冷ややかな視線を送っていたものです。あくまで私は「日本人としての平易な言葉」を大切にする、そんな硬派な会計士でありたいと思っていました。

しかし、数年後。

すっかり業界の絵の具に染まりきった私は、クライアントや友人の前で平然とこう口走るようになっていました。

「あ、その件はペンディングで。一旦持ち帰ってシュッドビー(あるべき姿)で検討してから、内部でフィックスしたものを共有しますね」

……かつての私が聞いたら、間違いなく助走をつけて殴っているでしょう。

今回は、そんな自戒とユーモアを込めて、一般社会では少し鼻につく、愛すべき「業界用語」の世界をご紹介します。


第1章:日常会話を侵食する「感染レベル:低」

まずは、もはや日本語だと思って使っているレベルの言葉たちです。これらが口から出始めたら、初期症状です。

用語 意味 当時の私のツッコミ 現在の私の症状
アサイン 配属、割り当て 「『来週から〇〇社の担当ね』でええやん」 「アサイン」だと変えの利く駒感がでて軽くてよい。「配属」だと重すぎる。
リスケ 日程再調整 (Reschedule) 「略すな。ちゃんと『予定変更』と言え」 「変更」と言うと角が立つが、「リスケ」と言うと軽やかな響きで許される気がする。
ペンディング 保留、先送り 「とりあえず止めるってことやろ?」 「保留」と言うより「検討中」というニュアンスを含ませて、停止していることへの罪悪感を薄める魔法の言葉。
フィックス 確定、決定 「修理(Fix)すんの? 固定すんの? どっち?」 「これでフィックスです」と言った時の、議論を終わらせる万能感に酔いしれている。

第2章:意識が高まる「感染レベル:中」

仕事のスピード感を出すために使われますが、友人との会話で使うと引かれる言葉たちです。

用語 意味 当時の私のツッコミ 現在の私の症状
アグリー 同意、賛成 「沖縄県のブランド豚?」 「同意」よりも重い。「アグリーしましたよね?」は、「後で文句言うなよ?」という言質を取るための圧力を含んでいる。
マスト 必須 「ヨット?」 「必要です」より強い。「これはマスト要件なんで」と言うと、誰も逆らえない空気が作れる。
ゴーする 開始する、承認する 「郷ひろみ?」 スイッチを押してロケットを発射するような勢いがあるが、実際やることは地味な事務作業の開始だったりする。
ファクト 事実 「事実確認でええがな」 「ファクトベースで話そう」と言うと、感情論を排除したクールな自分を演出できる。

第3章:もはや一般人には通じない「感染レベル:重篤」

ここからは、監査法人やコンサルティング業界の聖域(サンクチュアリ)です。一般の人が聞くと意味不明、もしくは誤解を招く危険な言葉たちです。

1. ブックする (Book)

  • 業界の意味: (資産・負債を)B/Sに計上する。

  • 解説: これが最大の罠です。「あ、それ今期でブックしといて」と後輩に言った時、後輩が本を探し始めたら、それはまだ健全な人間です。

2. シュッドビー (Should be)

  • 業界の意味: あるべき姿、理想形。

  • 解説: 業界最強のカード。「現状(As-Is)はこうですが、シュッドビー(To-Be)はこうですよね?」と言われると、誰も反論できません。新人が最もモヤモヤし、ベテランが最も乱用する言葉。「それはシュッドビーじゃない」は、人格否定に近いダメージがあります。

3. デューディリ (Due Diligence)

  • 業界の意味: 買収監査、詳細調査。

  • 解説: 略して可愛く言っても無駄です。膨大な資料の山と格闘する調査業務を指します。「来週からデューディリ入るわ〜」は、しばらく音信不通になる合図です。

4. バリュエーション (Valuation)

  • 業界の意味: 企業価値評価。

  • 解説: 株価算定のこと。エクセルで複雑怪奇なモデルを組んで数値を弾き出す職人芸。


実践編:恐怖の「横文字会議」

では、これらの言葉をフル活用すると、社内の会話はどうなるのか。

フィクションですが、だいたいこんな感じです。

(繁忙期の会議室にて)

パートナー: 「さて、例のPJ(プロジェクト)ステータスだけど、これって今すぐにゴーできるんだっけ? 現状のファクトだけ教えて。」

マネージャー: 「はい。実はクライアントから資料がまだ来ていなくて、リスケマストな状況です。」

パートナー: 「え、リスケ? それはまずいね。僕としては、今週中に終わらせる方向で会社とフィックスしてたつもりだったんだけど。」

私: 「すみません。現場としてもプッシュしてるんですが……。ただ、この手続は今回のタスクとして、絶対マストなんでしょうか?」

パートナー: 「(呆れた顔で)君さぁ、それを聞くこと自体がナンセンスだよ。監査人としてのシュッドビー(あるべき姿)で考えたら、当然エンドトゥーエンドでやるべきでしょ。」

マネージャー: 「そうだよ。シュッドビーから逆算してアプローチ考えないと。君、今年のプロモーション(昇進)かかってるんだから、もっと視座を高く持たないとね。」

私: 「……はい、おっしゃる通りです。」

パートナー: 「で、例の減損の件は? バリュエーションの結果はどうだった?」

私: 「あ、はい。そこはチェック済みです。結果として、今期で損失をブックする必要があるかと。それが最大のイシューになりそうです。」

パートナー: 「うーん、クライアントにとってもそこはクリティカルマターだから、一旦ボールは僕でいいよ。CFOとのミーティング日フィックスしたらカレンダー入れておいてくれる?」

私: 「承知しました。では、残りのタスクASAP(なる早)で片付けます……」


おわりに

いかがでしたでしょうか。

文章にしてみると、ルー大柴さんも驚きの「カタカナ語含有率」ですが、不思議なことに現場ではこれが一番スムーズに意思疎通できるのです。私も全く違和感ありません。

「郷に入っては郷に従え」と言いますが、私たちは無意識に自分たちの「郷(業界)」の言葉を、外の世界に持ち出してしまいがちです。

もし皆さんの周りで、急に「それ、アグリーで」とか「その飲み会、誰マター?」とか言い出した友人がいたら、生温かい目で見守ってあげてください。

彼らはかっこつけているのではなく、ただ必死に日々のイシューと戦っているだけなのですから。

さて、私もそろそろ次のミーティングが始まります。

今日のアジェンダは「来期のアサインについて」。

……ああ、やっぱり「配属」より「アサイン」の方がしっくりくる身体になってしまいました。