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「あの税理士を止めろ?」──節税インフルエンサー時代の功罪を考える
こんにちは、公認会計士・税理士の富村亮超(とみむら りょうたつ)です。
最近、「節税系YouTube」を見る機会が増えました。
発信力のあるインフルエンサーレベルの税理士さんが、
画面の向こうでテンポよく節税テクニックを紹介してくれる時代です。
正直に言うと、内容はかなり勉強になります。
同業者としても「これは説明の仕方がうまいな」と感心するものも多いですし、
実際に「この情報で助かる中小企業の社長さん、多いだろうな」と思うこともあります。
一方で、こんな声も耳に入ってきます。
「あの税理士をだれか止めろ。」
なぜか。
その背景には、こんな賛同意見があります。
-
「お上にバレたら、その節税スキーム、法改正で潰されるぞ」
-
「そもそも潰されるってことは、節税の皮をかぶった脱税的な指南なんじゃ……」
-
「あれは焼畑農業だ(自分の顧客の節税スキームを、自分で広めて自分で潰している)」
一方で、もちろん反対意見もあります。
-
「あれぐらい業界ではとっくに有名なスキームだから、
この人が広めてなくても、いずれお上は対策していたよ」 -
「だったら、なくなる前にきちんと整理して広めてくれているだけ有難いのでは?」
どちらの言い分も、一理あります。
今日は、特定の誰かを批判したいわけではなく、
「節税インフルエンサー時代」に、私たちは何を考えるべきかを整理してみたいと思います。
第1章:「止めろ」派の論点整理
まずは、「誰かあの税理士を止めろ」と感じる側の論点からです。
①「お上にバレたら潰される」問題
これは感覚としてわかりやすいと思います。
-
あるスキームがテレビやYouTubeで大々的に紹介される
↓ -
一気に全国で使われる
↓ -
税収に与えるインパクトが大きくなる
↓ -
結果として、法改正や通達改正で封じられる
こういう流れ自体は、過去にも何度も起こっています。
「こっそりやっているうちは見逃されていたものが、
大衆化した瞬間に“目立ってしまう”」
この感覚は、節税スキームに限らず、
ビジネスの世界ではよくある話です。
②「潰される=そもそも脱税寄りなのでは?」問題
次に出てくるのが、これです。
「本当に制度趣旨に沿った節税であれば、
そんなに慌てて潰されることはないのでは?」
つまり、
-
「潰される=グレーゾーンをだいぶ踏み越えていた証拠では?」
-
「それを“誰でも簡単にできる節税です!”と広めるのはどうなんだ」
という疑念です。
ここには、
「節税」と「脱税(あるいはそれにかなり近いもの)」の境界線を
どこで引くかという問題が潜んでいます。
③「焼畑農業」メタファー
最後が、「焼畑農業」という表現です。
焼畑農業は、
-
森を焼いて、その灰を肥料にして農地にする
-
しばらくは高い収穫が見込める
-
しかし、やがて土地が痩せてしまい、次の土地を焼きに行く
というスタイルです。
節税インフルエンサーに対する批判としての「焼畑」は、
だいたいこんなイメージです。
-
有利な節税スキームを「みんなに教えます!」と一気に広める
-
全国でドッと使われ、税収にインパクトが出る
-
お上が本気で対策に動く
-
そのスキームは使えなくなる
-
結果として、自分の顧客も含めて、誰も使えなくなる
つまり、
「お前、それ自分の顧客のメリットも一緒に燃やしてない?」
というツッコミですね。
第2章:「擁護」派の論点整理
一方で、節税インフルエンサーを擁護する立場にも、筋の通った主張があります。
①「どうせいつかは対策されてる」論
まず、こんな考え方です。
「業界ではとっくに有名なスキームなんだから、
この人が広めようが広めまいが、そもそもお上は把握していたはず」
税務当局も、そりゃ当たり前ですが情報弱者ではありません。
-
実務の現場で使われている手法
-
コンサル会社や大手事務所が採用しているスキーム
-
判決・裁決になった事案
こういったものを通じて、制度の「穴」にはいずれ光が当たります。
「YouTubeで広がったから潰された」のか、
「いずれにせよ潰されるタイミングを少し早めただけ」なのか。
この切り分けは、単純ではありません。
②「情報の民主化」という側面
擁護派が強調するもう一つの論点が、情報格差の是正です。
これまでの節税ノウハウは、
-
大手企業
-
富裕層
-
高額な顧問料を払える一部のクライアント
に偏りがちでした。
そこに、YouTubeが割り込んできた。
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中小企業の社長
-
個人事業主
-
地方の小さな会社
こういった層にも、一定レベルの情報が届くようになった。
「どうせ寿命があるスキームなら、
一部の人だけではなく、もう少し広い層の人が恩恵を受けてもいいのでは?」
これは、倫理的に見ても、無視できない観点です。
③「善か悪か」でなく、“どう使うか”の問題
そして最終的には、
「節税インフルエンサー」という存在そのものが善か悪か
という二元論ではなく、
その情報をどう使うかの問題ではないか?
というところに行き着きます。
ここからは、その「どう使うか」を考えるために、
関係者ごとに視点を分解してみます。
第3章:ステークホルダー別に見てみる
① 納税者(経営者)からの視点
経営者にとって、節税系YouTubeのメリットはわかりやすいです。
-
「そんな方法があったのか!」という選択肢の発見
-
顧問税理士に丸投げしていた税金の世界を、
自分事として理解するきっかけになる
一方で、リスクもあります。
-
「動画で言ってたから大丈夫だろう」で走り出してしまう
-
自社の状況に合っていないのに、形式だけ真似してしまう
-
デメリットや副作用(資金繰り・将来売却時の不利など)を見落とす
情報が「タダ」で手に入る分、
“安く見積もりやすい”という副作用もあるわけです。
② 税理士からの視点
税理士側にとっても、節税情報の発信は諸刃の剣です。
-
情報発信を通じて、顧客への説明がスムーズになる
-
自分のスタンスや得意分野を打ち出しやすい
-
信頼を得られれば、新規顧客の獲得にもつながる
一方で、
-
「そのスキームに依存したビジネス」になってしまうと、
法改正で一気に土台が崩れる -
一部だけ切り取られて広まると、本意でない使われ方をされる
-
グレーゾーンの情報ほど“ウケる”ので、
気づけばそちらに寄ってしまう危険もある
「どこまで言うか」「どこからは言わないか」の線引きが重要になっていきます。
③ 国税・立法側からの視点(仮想的に)
お上の中の人ではないのであくまで想像ですが、
向こう側の風景も少し想像してみます。
-
個別の節税スキームそのものは、日々情報として集まっている
-
特定のスキームが「バズっている」場合、
税収へのインパクトや不公平感を見ながら優先度を判断する -
露骨に制度趣旨をねじ曲げるものは、
「早めに対策しよう」という空気が生まれやすい
その意味で、「焼畑」的に一気に燃え上がったスキームは、
“燃え尽きるまでの時間”が短くなりやすい
というのはたしかにあると思います。
第4章:「焼畑農業」というメタファーは本当に正しいか?
ここで、あらためて「焼畑農業」という比喩を少し分解してみます。
① 「穴」を売り物にすると焼畑化しやすい
焼畑化するパターンはだいたいこうです。
-
「法律の穴」を見つける
-
それを「◯◯節税スキーム」として商品化する
-
広く売れば売るほど、制度側から見た「塞ぐべき穴」の優先度が上がる
-
穴が塞がると、その商品価値はゼロになる
この構造だと、ビジネスモデル自体が短命にならざるを得ません。
穴が塞がれたあとに残るのは、
-
クライアントの「なんか最近使えなくなったな…」というモヤモヤ
-
信頼の目減り
-
過去分が否認されるリスク(ケースによる)
などです。
② 「構造」を伝える発信は、むしろ土壌を豊かにする
一方で、同じ節税の話でも、
「穴」ではなく「構造」や「制度趣旨」を伝えるタイプの発信があります。
例えば、
-
なぜこの支出は経費になるのか
-
なぜこの取引は繰延べになるのか
-
なぜこの制度は中小企業を優遇しているのか
といった、「なぜ?」の部分をしっかり説明する内容です。
こうした情報は、たとえ個別のスキームが使えなくなっても、
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経営者の税務リテラシー
-
数字を見る感覚
-
将来の意思決定の質
として土壌に残り続けます。
ここで雑にまとめてしまうと、
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「穴依存型」の発信 → 焼畑化しやすい
-
「構造理解型」の発信 → 土壌を豊かにする
という整理ができそうです。
③ 視聴者としての見分け方
では、視聴者としてはどこを見ればいいのか。
一つの目安としては、
「この人は“やり方”だけでなく、“なぜそれが認められているのか/どこからがアウトか”まで説明しているか?」
という点です。
「やり方だけ」の発信は、一時的には派手でわかりやすいですが、
長期的に見ると一番リスクが高い情報でもあります。
第5章:個人的なスタンス
ここまで少し抽象的な話をしてきましたが、
最後に、私としての個人的なスタンスも正直に書いておきます。
① グレーゾーンの一発屋スキームは、基本的にやりたくない
まず大前提として、
「グレーゾーンをギリギリまで攻める一発屋スキームで儲けよう」
とは、思っていません。
理由はシンプルで、
-
法改正・通達改正であっという間に使えなくなる
-
伝家の宝刀、行為計算否認リスクが普通にある。
-
10年後に振り返ったとき、「あれやってよかったね」と言いにくい
からです。
② 「制度の趣旨に沿った節税」+「経営の数字を整える」
私たちが価値を出せると考えているのは、
-
制度趣旨に沿った、“ちゃんとした”節税
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それを支える、決算や資金繰りの設計
-
将来の事業承継やM&Aまで見据えた、長期目線の税務戦略
といった、地味だけど長持ちする部分です。
派手さはありませんが、
「10年後、20年後に振り返っても説明できる選択か?」
という視点を、一番大事にしたいと思っています。
③ 情報発信のポリシー
とはいえ、弊社としての立場で情報発信をするときは、
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「今だけ使える可能性が高いが、効果的なワザ」
も、当然、問題ない範囲で提案することはあります。
ここは、税理士としての価値というのはこういう部分にも当然あるというのは理解しているからです。
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「なぜそれが認められているのか」
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「どこからがやり過ぎか」
-
「それを選ぶと、将来なにが起きうるか」
まで含めて、お伝えしたいと考えています。
おわりに:敵か味方か、ではなく「どう付き合うか」
節税インフルエンサーに対して、
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「あの税理士を誰か止めろ」
-
「むしろ広めてくれてありがたいじゃないか」
という両極端な声が上がるのは、ある意味、
情報が“民主化”されてきた証拠でもあります。
大事なのは、
「節税系YouTubeを見ないこと」でも
「節税系YouTubeを全面的に信じること」でもなく、
情報の「使い手」として、どう成熟していくか。
その過程を、税理士として・会計士として、
これからも一緒に考えていければと思います。
もし、
「うちの状況で、あの動画のスキームは本当にやっていいのか知りたい」
という方がいらっしゃれば、
個別にご相談いただければ、あなたの会社の状況に即してお話させていただきます。
